読書メモ: 世界標準の経営理論 - 第6章 情報の経済学2(エージェンシー理論)
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前回の 読書メモ: 世界標準の経営理論 - 第5章 情報の経済学1 の続きを読んでいきます。
いやあ、良い本なんだけど、どこからでも読めるってのはやっぱ言い過ぎだなあ。 これも第5章の情報の経済学1をしっかり理解してからでないと、ここ分からなくないかな? (だってタイトルに『情報の経済学2』って書いてありますし・・・)
あとこの辺りの話は、経済学をベースにした『人間は合理的に動く』ってのを前提としてるので、 合理的に動かなかったらどうなの?って問いには答えられない問題は常にありますよね。
もちろんその辺りは別の理論として中盤から後半に出てくるでしょうから、そっちをチラッと読んでみたい気もするんですが、 順番に読まないと理解しづらいところも出てきそうなので、グッと我慢して順に読んでいきたいと思います。
「ここの理解少し間違ってるよ」などあれば、どしどしご指摘いただければと思います。
『第6章 情報の経済学2(エージェンシー理論)』の概要
第6章はまとめるとこんな感じの内容でした。
- 取引成立後に、その取引内容に合わせて基準を下げる、その方向にインセンティブが働いてしまう モラルハザード問題(エージェンシー問題)
- 前回は、取引前にアドバース・セレクションが起きて本来望ましいはずの取引ができなくなる問題、 今回は取引の後の話
- 例: 安定を求めて安定した会社に入ると、手を抜いても会社は安定しているため、必要以上にだらけてしまう社員が増加しちゃう
- 精神論でなんとかするのではなく仕組みで解決する、 モニタリング と インセンティブによる解消法 などが有効
- 同族企業の方が非同族企業よりも業績が高くなるのも、 エージェンシー理論を思考の軸にして説明 できる
モラルハザード問題(エージェンシー問題)とは
保険ビジネスの例でモラルハザード問題が紹介されているので、同じように紹介します。
- Aさんは注意深く運転する(事故を起こしにくい)
- Bさんは不注意で事故を起こしやすい
二人のドライバーが保険会社と契約する例です。 保険会社からは誰が事故を起こしやすいか分からず、本人からは事故を起こしやすいかどうかは分かるので、 これは情報の非対称性がある状態です。
- Aさん
- 高い保険料を提示される
- 割に合わないので加入しない
- Bさん
- 高い保険料を提示される
- 割に合うので加入する
このように事故率の高いBさんだけが顧客として契約して、アドバース・セレクションが起きています。
今回はさらにAさんは割に合わないと思いつつも両者が契約した後の続きの話をみていきます。
- Aさん
- 保険に加入する
- 以前ほど注意深く行動しなくていい、と思うようになる
Aさんが元々保険に入っていないがために注意深く運転してたとしたら、 保険に入ることで注意深く運転しなくても良いというインセンティブが働くことになってしまいます。
この問題を モラルハザード問題 、あるいは エージェンシー問題 と呼ばれ、 このメカニズムや対処法を考えるのが エージェンシー理論 、または プリンシパル=エージェント理論 と呼ばれます。
目的の不一致と情報の非対称性があるとモラルハザードが起きる
具体例がいくつか挙げられていたので紹介します。
- 管理職と部下
- プリンシパル: 管理職、エージェント: 部下
- 管理職の人は一生懸命働いてほしいと考えているが、部下の人は手を抜きたいと考えている(目的の不一致)
- 管理職の人はなかなか部下一人ひとりの行動を把握できない(情報の非対称性)
- 経営者と管理職
- プリンシパル: 経営者、エージェント: 管理職
- 経営者は可能な限り売上を上げたい、管理職の人は今期予算達成しちゃったので、余った分を来期に回しちゃう(目的の不一致)
- 経営者からはそれが今期分なのか来期分なのか分からない(情報の非対称性)
- 株主と経営者
- プリンシパル: 株主、エージェント: 経営者
- 株主は株の価値を最大化したい、経営者は派手なM&Aをして自分がメディアに注目されたい(目的の不一致)
状況によってどちらにもなりうるし、会社にはエージェンシー問題が内在するんだよという話です。
エージェンシー理論を精神論ではなく仕組みで解決する
以下の2つが紹介されています。
- モニタリング
- インセンティブによる解消法
いずれにしても、その問題の根源である『目的の不一致』と『情報の非対称性』を解消する組織デザインとルールを作ることが大事だよ、とのことでした。
モニタリング
プリンシパルがエージェントを監視する仕組みを組織に取り入れて、 情報の非対称性を解消する ことでエージェンシー問題をなんとかする話です。
具体的には・・・
- 上司が部下に1週間の業務内容を報告させる
- 取締役会に人を送り込む
- 社外取締役・監査役の導入
あたりです。
いやーでも個人的にはモニタリングって名前がモチベ下がりそうな感じしててちょっとやだなーみたいなのはあるかも。
インセンティブによる解消法
目的の不一致があったエージェントに、プリンシパルと同じ目的を達成させるデザイン・ルールを与え、 目的の不一致を解消する ことでエージェント問題をなんとかする話です。
具体的には・・・
- 業績連動の報酬
- ストックオプション(数年後に会社の価値が一定以上上がれば、その株を低い額で購入できる権利)の付与
あたりです。
個人的にはこっちの方が好きかも。
万能ではなく、副作用もある
以下の点で問題出てくるかもよ?みたいな話。
- モニタリングコスト
- モニタリング自体の限界
- 業績連動のインセンティブの難しさ
- ストックオプションで定められた基準を下回っているときにやる気起きない問題(逆にそれを防ぐために粉飾に走る問題)
企業組織の問題は複雑なので、自身でエージェンシー理論を思考の軸として考えていくことが大事だよーという話が紹介されています。
いやー確かにそうなんですけど、個人の感想として、 実際思考の軸として適用する際に、その解消法をデザインするところに結局スキルやセンスが必要そうだなあ、難しそうだなあという印象を持ちました。 まあそれが会社経営です、と言われたらそうですね・・・と言わざるを得ないんですけども・・・。
同族企業の方が非同族企業よりも業績が高くなる話
最後に同族企業の話が紹介されているのですが、 プリンシパルを主要株主の創業家、エージェントを婿養子の経営者とみることで、 婿養子として入ることで目的の不一致が解消され、婿養子の経営者はブレのない戦略が打ちやすいよ、的な話でした。 当然もっと細かく書籍には書いてあるので、詳しくはご自身でどうぞ。
まとめ
- モラルハザード問題(エージェンシー問題)は会社組織の至る所で起きる余地がある
- エージェンシー理論を思考の軸にして、精神論での解決ではなく、組織のデザインとルール作りで解消していこう
精神論で解決するところから脱却しようぜ、っていうのは結構好きですね。
最近は○○しなきゃいけない、という気持ちになった時点で、「あっこれは負けてる・・・」と思うようにしていて、○○しなきゃいけないを○○したいという気持ちに変えられる何らかの仕組みを導入して、○○したいという気持ちに自然と変わったら「よし勝った・・・」と思うようにしてる
— ばうあー (@girigiribauer) February 2, 2020
僕も普段から精神的に頑張ってどうこうよりも、自然と○○したくなるような仕組み作りを頑張っていきたいと思っているので、 エージェンシー理論の思考の軸をあれこれ使わせてもらいながら、色んなところに適用しつつ考えてみたいと思います。
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