読書メモ: 世界標準の経営理論 - 第21章 意思決定の理論

この記事は書かれてから1年以上が経過しており、最新の情報とは異なる可能性があります

前回の 読書メモ: 世界標準の経営理論 - 第20章 認知バイアスの理論 の続きを読んでいきます。

経営学ってビジネスに出てくるものなら何でも学問として捉えていっちゃう感ありますね。 なんかすごい。

今回は意思決定に関する理論だそうです。

主観ですがたぶんこの辺ビジネスの根幹ですよ。 そんでもって意思決定なんてのはビジネス以外でも普通に生きる上で常々行うものなので、 応用範囲がめっちゃありそうな予感です。

それでは読んでいきます。 「ここの理解少し間違ってるよ」などあれば、どしどしご指摘いただければと思います。

『第21章 意思決定の理論』の概要

第21章はまとめるとこんな感じの内容でした。

  • 認知バイアスのない範囲の話、 期待効用理論
    • 期待値 を使って数学的にどっちがいいか計算する話
    • リスクの取り方は主観による、 資産が増えればリスクは取らなくなる傾向
    • 投資家は分散投資、経営者は1社のみなのでリスク性向が異なる、エージェンシー問題にも関係してくる
  • 認知バイアスのある範囲の話、 プロスペクト理論
    • 人はそれぞれ 主観的なリファレンス・ポイント を持つ、上回ったら利得、下回ったら損失
    • 人は 損失をより避けたがる 傾向にある
    • 人は大きな利得を得るほど効用の追加的な伸び幅が減少 し(上の資産が増えればリスク取らないと同じ)、 損をするほど追加的な損失に対して鈍感になる
    • フレーミング効果 によって主観的なリファレンス・ポイントを変える
  • 近年の経営学では 直感 が重要視されている、時に直感で意思決定した方が望ましい結果が得られる
    • 不確実性が高まると、経験に裏打ちされた場合に限れば直感の方が望ましいケースもある
    • 素人のうちは論理的・客観的な思考が重要

期待効用理論とは

最初は認知バイアスがない範囲の話で、 期待値 を使って数学的にどっちがいいか計算する話です。 見れば分かるように、だいぶ話が経済周り、つまりは第1部に近い話になってます。

この辺の話、期待値は合理的な意思決定を考える際の、基本中の基本ツールだ、とされていますが、 その上で意思決定そのものは人の主観がなせることである、とされてます。

こちらの例にも載っていましたが、資産50億に対して追加で50億増えた場合と、 資産500億に対して50億増えた場合とでは、効用(主観的な満足度)の増え具合は全然違いそうです。

実際 資産が増えれば増えるほど、追加的な効用の上昇は小さくなる傾向がある 、とされ、それが効用関数(対数グラフっぽいやつ)とともに紹介されています。

エージェンシー問題( from 第6章)

ここの期待効用理論の例として、投資家と経営者の立場の違いが紹介されてます。

第6章に、目的の不一致と情報の非対称性があるとモラルハザードが起きる、という形で、エージェンシー理論が紹介されてましたね。

from 読書メモ: 世界標準の経営理論 - 第6章 情報の経済学2(エージェンシー理論)

投資家は分散投資しているので元々リスクヘッジできている、 これに対して経営者は1社のみなのでリスク回避気味になる、 つまりは両者でリスク性向が異なるので、目的の不一致が起きるよ、エージェンシー問題が起きるよ、と紹介されてます。

ここの最後に、人のリスク性向には個人差があるので、自身にとって最大の期待効用をもたらす事業を選んで投資すべき、 ということが 期待効用理論 の骨子としてまとめられてます。

プロスペクト理論とは

プロスペクト理論 の命題として3つ紹介されてます。

  • 人はそれぞれ 主観的なリファレンスポイント を持つ、上回ったら利得、下回ったら損失
  • 人は 損失をより避けたがる 傾向にある(失う満足度の方が強く感じる)
  • 人は大きな利得を得るほど効用の追加的な伸び幅が減少 し(上の資産が増えればリスク取らないと同じ)、 損をするほど追加的な損失に対して鈍感になる

これ、382ページにある図を見ると非常に分かりやすくて良い(めんどいのでここには引用しないけど)ので是非とも見て欲しいんですけど、 この上記命題を分かりやすくグラフ化しています。 (あっでも言いたいことは上記と同じですね)

左右の横軸が利得・損失の軸、上下の縦軸が効用の軸となっていて、 右側の利得部分についてはさっきの期待効用理論と同じく、利得が増えるほど効用がだんだん小さくなっていくという対数的なグラフ、 左側の損失部分についてはそれを逆にしたような、損失が増えれば増えるほど効用の下がり具合もだんだん小さくなっていくという逆さの対数的なグラフ、 マイナスの方がプラスに比べて大きく下に触れてる感じのグラフです。 (あっ、訳わかんないですよね。ぜひとも図、見てください)

損切りできない、という意思決定バイアス

具体事例としてパナソニックのプラズマテレビへの過剰投資の話が例として挙げられています。

プラズマテレビへの投資を行った直後に、液晶テレビがメインになってきて、 損失がリファレンス・ポイントから大きく左にずれてしまっている状態です。

本来であれば早めにプラズマテレビを見限る、損切りする判断をしなければならなかったのですが、 プロスペクト理論により、損をするほど追加的な損失に対して鈍感になってしまった がゆえに、 追加投資をしてさらに損失が膨らんでいくという、損切りできない意思決定バイアスが働いていたんじゃない?と紹介されてます。

フレーミング効果によってリファレンス・ポイントを変える

さらに、リファレンス・ポイントを一定コントロールすることで、人の意思決定に影響を与えられるのでは?という話が、 フレーミング効果として紹介されてます。 (このフレーミングというのは、見せるところをフレームに収める的なところからきてるんですかね?)

  • 利得を強調したフレーミング で選択肢を与えられた人は、 リスク回避的な意思決定 をしがち
  • 損失を強調したフレーミング で選択肢を与えられた人は、 リスク志向的な意思決定 をしがち

すごく分かりやすい事例があったので併せて。

  • フレーミング1
    • この事業に投資すれば、3分の1の確率で300万ポンド手に入れられるが、3分の2の確率で利得はゼロになる
    • リファレンス・ポイントはゼロ、増えれば増えるほど利得
  • フレーミング2
    • この事業に投資すれば、3分の1の確率で目標を達成できるが、3分の2の確率で目標から300万ポンド下回ることになる
    • リファレンス・ポイントは目標とされている300万ポンド、下回ればすべて損失

なるほどー。

これは確かに言ってることは両方同じなんですけど、フレーミング効果によってリファレンス・ポイントがずらされているのはよく分かります。

こういったフレーミング効果を利用して、 相手にリスクを避けてほしいなら利得を強調、リスクを取って欲しいなら損失を強調 するといいんじゃない?と紹介されてます。

直感の話

本書では、直感の話とはいえそこそこ長めに紹介されてます。

これがなかなか読んでて面白いのですが、ここでは紹介程度に留めておきます。

  • 不確実性が高まると、経験に裏打ちされた場合に限れば直感の方が望ましいケースもある
  • 素人のうちは論理的・客観的な思考が重要

まとめるとこんな感じでしょうか?

僕はどっちかっていうとまだ玄人とは呼べないレベルなので、論理的・客観的な思考が必要だろうなあと自分のことを考えてますが、 不確実性が高まったときに、ちゃんと経験に裏打ちされた人が時に直感で判断すると、優れた意思決定ができるよ、とされてます。

その直感の例としてソフトバンク・ビジョン・ファンドの孫正義氏の話が紹介されていたのですが、 アリババ創業者のジャック・マー氏への20億円の投資を、事業計画書も見ずに5分で決めたらしいです。すごい。

論理的・客観的な思考で繰り返し投資するに値するか否かをたくさん判断してきたからこそ、なんですかね。

経営学において、現在は直感の重要性を科学的にとらえるパラダイムシフトが起きてきてるよ、と紹介されていて、 なんだか非常に興味深いです。

章始めに直感に関する話が最後にあると書いてあったので、おまけ程度かなとおもいきや、 意外と掘り下げて書いてあるのでぜひともご自身でどうぞ。 (というか直感を鍛える的な話を掘り下げたいなら、たぶん別の書籍を探した方がいいのかも?)

まとめ

  • 意思決定としての基本、期待値による計算、期待効用理論を使う
  • 認知バイアスがあるので、フレーミング効果でリファレンス・ポイントをコントロールする

相手に対して、リスクの取って欲しさに応じてリファレンス・ポイントをずらして伝えるの、なんだか応用できそうな気がしますね。

あと、人が失う満足度の方が強く感じるっていうの、主観の話ですけどすごく実感はありますね。 この辺はなんで?というよりは、そういう生き物って考えた方がいいんですかねー。 進化の過程で得たとかかな? プロスペクト理論というのを掘り下げて調べてみると分かるのかもしれません。

この記事は書かれてから1年以上が経過しており、最新の情報とは異なる可能性があります

もし記事内に誤りなどございましたら、 @girigiribauer @girigiribauer.com までご一報いただけると助かります。