読書メモ: 世界標準の経営理論 - 第8章 ゲーム理論1
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前回の 読書メモ: 世界標準の経営理論 - 第7章 取引費用理論(TCE) の続きを読んでいきます。
ゲーム理論は実は学んだことがあって、概ねどういったものかは分かっていたりします。
とはいえ、こうやって経営側からの観点で触れるゲーム理論と、 情報からの観点で触れるゲーム理論とで、異なる視点で同じ理論に触れていくことになるので、 中々面白いんじゃないかなと思ったりしてます。
ちなみにゲーム理論、というワードを初めて聞く方は誤解のないように言っておきますが、 いわゆるテレビゲームやゲームセンターのようなゲームとは異なります。 もっと抽象的な、行動の仕方とか損得勘定とかそういう話を理論化したものですね。
「ここの理解少し間違ってるよ」などあれば、どしどしご指摘いただければと思います。
『第8章 ゲーム理論1』の概要
第8章はまとめるとこんな感じの内容でした。
- 今回の章の前提として、2社が市場の大半を締める『複占』での競争戦略の話
- 自分と相手、相互の意思決定のメカニズムを考えるあれこれを ゲーム理論 と言う
- 自分と相手の行動の場合分け(表にしたものをペイオフ・マトリックス、利得表という)を行い、最終的に定まる結果を ナッシュ均衡 と呼ぶ
- 必ずしもお互いが得をするとは限らない、場合によっては両者が損をするケースもある
- クールノー競争 について
- 生産量などの 数量について意思決定(数量ゲーム) し、その意思決定が同じタイミングで行われる(同時ゲーム)競争関係のことを言う
- ベルトラン競争 について
- 両社の製品は十分に差別化されておらず、 価格について意思決定(価格ゲーム) し、その意思決定が同じタイミングで行われる(同時ゲーム)競争関係のことを言う
- 社会の制度・文化などの多くは、お互い空気を読みあった上でナッシュ均衡となっており、 一度決まると安定して動かない
- 例: 名刺交換の慣習、エレベーターの左右の立ち位置
クールノー競争について
まずは 生産量 について焦点をあてたゲーム理論の話です。
要するに、A社B社それぞれ、生産量に関して『増産』するか?『現状維持』するか?を意思決定するとしたらどうなるの?、という例です。
(単位: 億ドル) | B社 現状維持 | B社 増産 |
---|---|---|
A社 現状維持 | シナリオ1 A: 15 / B: 15 |
シナリオ2 A: 15 / B: 25 |
A社 増産 | シナリオ3 A: 25 / B: 15 |
シナリオ4 A: 17 / B: 17 |
(スマホで見づらくなるからあまり表は書きたくないのだが・・・書かずに紹介は難易度高い・・・)
- シナリオ1: 両社とも現状維持だと、15億ドル
- シナリオ2: B社だけが増産、B社は25億ドル増加するが、A社は15億ドルのまま
- シナリオ3: A社だけが増産、A社は25億ドル増加するが、B社は15億ドルのまま
- シナリオ4: どちらも増産すると供給超過 となってしまい、17億ドルに留まる
この場合に、A社B社が読みあった結果、どちらも現状維持よりは増産した方が、(相手がどっちを選んだとしても)利益が増えるので、 最終的に定まる結果、 ナッシュ均衡 はシナリオ4のどちらも増産となります。
確かにこの表を見ると、供給超過になったとしても、17億ドルなわけなので、現状維持で15億ドルになるよりもマシになってますね。
結託すると・・・
確かにこの例で言えば、書籍の方には具体的には書いてはないですが、シナリオ2のB社だけが増産、シナリオ3のA社だけが増産、を交互に繰り返すと、お互いの利益が一番多くなりますね。
まあでも、現実で一言で言ってしまうと談合・・・!(村役場とかで、次はおたくの会社で・・・みたいなやつ)
非協力ゲームの前提で考える・・・
実際には、生産量の結託は競争法上違反であることが多い、と紹介されてます。
結託をしない前提であれば、上のシナリオ4がナッシュ均衡となってしまいますね。
具体例として半導体業界の例が挙げられていますが、新世代の半導体への投資が行われるたびに供給過剰となり、 値崩れが起きてしまっているにも関わらず、この状況をなんとかできない、ナッシュ均衡で安定してしまっているよ、と紹介されています。
ベルトラン競争について
今度は 価格設定 について焦点をあてたゲーム理論の話です。
同じような例で、今度は価格について『現状維持』か?『価格引き下げ』か?の2択の意思決定をするケースです。
(単位: 億ドル) | B社 現状維持 | B社 価格引き下げ |
---|---|---|
A社 現状維持 | シナリオ1 A: 15 / B: 15 |
シナリオ2 A: 3 / B: 20 |
A社 価格引き下げ | シナリオ3 A: 20 / B: 5 |
シナリオ4 A: 5 / B: 7 |
- シナリオ1: 両社とも現状維持だと、ともに15億ドルの利益
- シナリオ2: B社だけが価格引き下げ、B社の利益は20億ドルだが、A社は3億ドルに下がる
- シナリオ3: A社だけが価格引き下げ、A社の利益は20億ドルだが、B社は5億ドルに下がる
- シナリオ4: どちらも引き下げると顧客の奪い合いとなってシェアは変わらず 、価格が下がった分だけA社5億ドル、B社7億ドルに下がる
シナリオ4はいわゆる価格競争ですね。 それぞれ場合分けして考えると、A社もB社も価格を引き下げた方が戦略として合理的となってしまい、 結果的にナッシュ均衡がシナリオ4の顧客の奪い合いとなってしまいます。
このように本来利益率が高いはずの寡占状態で、ベルトラン競争の結果として、完全競争と同じような水準まで利益率が下がってしまうことを ベルトラン・パラドックス と呼ぶそうです。
なるほど。
これたぶんチキンゲームで両方崖から落ちちゃう、みたいなことですかね。 あるいはタカ派とハト派に分かれたときに、タカ同士が争ってしまってお互い深くダメージを受けてしまうみたいな。
ベルトラン・パラドックスを避ける
ここでは3つあるものの、そのうちの2つを紹介し、残りは次章とされているので、2つ紹介しておきます。
- 十分な差別化
- ビジネスの特性
- 初期投資が必要なビジネスではクールノー競争になりやすく、供給過剰になりうる
- 供給過剰になると、価格競争(ベルトラン競争)に移らざるを得ない
まとめ
- ベルトラン・パラドックスこわい
- ゲーム理論の話は次章に続く
とはいえ、消費者の視点から見ると、もっと携帯電話業界もっと価格競争してくれよ、と思うわけなんですけども。 ベルトラン・パラドックスに陥っていない、ということなんでしょうか?
供給量から見た場合、価格面から見た場合それぞれの視点で見ていくところが、経済っぽさがあるなーと思いました。
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