読書メモ: 世界標準の経営理論 - 第35章 企業ガバナンスと経営理論
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前回の 読書メモ: 世界標準の経営理論 - 第34章 組織行動・人事と経営理論 の続きを読んでいきます。
前回までで642ページで、残り160ページほどでしょうか。だいぶ減ってきました。
今見た目こんな感じです。
電子書籍も好きなんですけど、 紙媒体だとこのように読んでる感があって、これはこれで良いんですよね。 同じことが電子書籍でも体験できるといいんですけどねー。
今日も1章分読んでいきます。 「ここの理解少し間違ってるよ」などあれば、どしどしご指摘いただければと思います。
『第35章 企業ガバナンスと経営理論』の概要
第35章はまとめるとこんな感じの内容でした。
- 企業ガバナンス は国、地域などによって異なるし、時代によっても変化する、 ステークホルダー(関係者)に対してその権利とリターンを保証するための仕組み と定義されている
- これを本章では 従来型の企業ガバナンス理論 としたうえで、それに対しては エージェンシー理論 が活用できる
- ステークホルダーが多様化 していて、極度な株主中心主義ではなく、株主以外のステークホルダーが考慮されてきている
- これを本章では 新しい企業ガバナンス理論 として、社会学の視点での理論が活用できる
- 企業ガバナンスを考えることは、 人はそもそもどういう動機で仕事をするのか? を掘り下げることにもつながる
- スチュワードシップ理論 、人は責任感によって行動するという、エージェンシー理論とはある意味対極に当たる理論
- 人は多様な考えを同時に持つ生き物なので、合理性と責任感が常に入り交じる、状況に応じて 最適なガバナンスを自分で考える
極端な株主重視の時代、従来型の企業ガバナンスの話
いわゆるコーポレートガバナンスの話です。
結構この章を読む前までは、倫理的な話、悪いことしちゃいけません、みたいな話なのかな?と思っていたんですけど、 元々のコーポレートガバナンスはどうやら違うようで。
時代や状況によって企業ガバナンスは異なってくるとはいいつつも、 1990年代にファイナンス研究で示された定義によると、 ステークホルダー(関係者)に対してその権利とリターンを保証するための仕組み とのことだとここでは言われています。 要するに投資したんだからリターンちゃんと守れよって話のようです。なるほどw
なので、株主と経営者とで目的の不一致が起きないようにするだとか、情報の非対称性がないようにしてモラルハザードを起こさないようにするだとか、 つまりは第6章のエージェンシー理論が大事だよ、ある意味ガバナンス研究の歴史はエージェンシー理論の歴史でもあるよ、とも言っています。
from 読書メモ: 世界標準の経営理論 - 第6章 情報の経済学2(エージェンシー理論)
エージェンシー理論を活用することで、企業ガバナンスのこんなところが良くなるかもよ?という解説がいくつか載っていたのでメモ。
- 取締役会のあり方
- 独立した社外取締役を招いてしまうという方法
- 社外取締役は、経営陣ではなく株主を代表するので、目的の不一致を解消し、情報の非対称性を解消するかも
- 株主構成のあり方
- ある程度大口の株主の存在
- 株主総会などを通じて意見が通りやすい、目的の不一致を解消しやすい
- 経営陣のインセンティブのあり方
- 報酬を株式でもらう、ストップオプションの付与
- 経営陣の報酬を株価に連動させることで、向いている方向を同じにする
なるほど、言われてみるとどれも目的の不一致を解消する方向の施策になってますね、へー面白い。
この中で、株主構成のあり方の代表例として、日本特有の慣習である親子上場が例として挙げられていたのですが、 親子上場が個人的にいまいちピンと来てなくて、別で調べてしまいました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%AA%E5%AD%90%E4%B8%8A%E5%A0%B4
あー、なるほどなるほど。例えば親が持株会社とかで、子供に相当する会社も上場してるケースってことですね。 こういう場合には、往々にして子会社の方の株主の意見が通りにくい、 情報の非対称性が生まれやすいって理解でいいんでしょうか。
ステークホルダーが多様な時代、新しい企業ガバナンスの話
企業ガバナンスは時代や状況によって変わりうるというものなので、 ステークホルダーが多様化 することによって、株主以外のステークホルダーが考慮されてきているとのことでした。
ジョンソン・アンド・ジョンソンの日本法人社長、カルビーの会長兼CEOなど歴任された松本晃氏は、 「ステークホルダーの優先順位は第1に顧客、第2に取引先、第3に従業員とその家族、第4にコミュニティ、そして最後に株主」と発言されているそうです。
筆者はステークホルダーが多様化してきた理由として3つ挙げています。
- 様々な企業・組織のネットワーク、関係性が見えるように
- 貧困率の上昇、食料問題などの世界的な社会問題
- グローバル化、様々な国・地域のガバナンスのあり方が比較検討されるように
これらによって、 つながりのメカニズムを解き明かす社会学ベースの理論が有用 だと筆者は触れています。 (続けて社会学のターンで紹介されてた理論で、こういう時に使える、みたいなのがいくつか紹介されてますが端折っちゃいますね)
人は複雑なので、最適なガバナンスも状況によって変わりうる
さてここで新たな理論が紹介されるとは思わなかったのですが、 企業ガバナンスを説明するための専用の理論とのことで、 第1部から第4部であえて取り上げなかったとのことでした。
まず人は合理的に意思決定する、という今までの前提とは異なり、 人は達成感、満足感、敬意、倫理観などを前提として動く というのが スチュワードシップ理論 の前提の考え方で、 この前提に立って考えると、エージェンシー理論とは全く異なる示唆が得られる、と触れられています。 (ここでは、スチュワードシップ理論自体は触り程度しか紹介されてないのかな?)
取締役会のあり方についての事例が紹介されていたので、このままメモ。 エージェンシー理論の方にも、取締役会のあり方はこうあるべきだ、と紹介されてましたので、比較して見てみます。
- エージェンシー理論 における取締役会のあり方
- 独立した社外取締役を招いてしまうという方法
- 社外取締役は、経営陣ではなく株主を代表するので、目的の不一致を解消し、情報の非対称性を解消するかも
- スチュワードシップ理論 における取締役会のあり方
- 内部の人材を取締役に多く抜擢する方法
- 独立社外取締役は外部の人間なので、会社をよくしようとする『責任感』が弱い
- スタートアップ企業の方が、一般的に一体感、達成感、情熱、責任感などに満ちているはず
すごい、ほぼ真逆のこと言ってる・・・w
2大理論から見る企業ガバナンスの難しさ
なんでこんなことになっちゃうかというと、それは人は多様な考えを同時に持つ生き物だからなのでした。
2019年の WeWork の事例(スキャンダルでCEOを辞任した例)も紹介されていたのですが、 スタートアップ企業だからといって、必ずしも責任感に満ちている、というわけではないし、 合理性と責任感が常に入り交じるので、どちらかの理論が善、もう片方が悪、とかいうことではないということですね。
企業ガバナンスを考えることは、 人はそもそもどういう動機で仕事をするのか? を掘り下げることにもつながる、と筆者は触れていて、 それも踏まえて 最適なガバナンスを自分で考える 必要があるよと締めくくられてます。
個人的な意見ですけど、たぶんどんな会社にしたいか、経営者の思いなんかも企業ガバナンスに大いに反映されるべき話なのかなーとも思いました。 とことん利益を追求してそれを生み出す組織に最適化したいのなら、エージェンシー理論に全振りしちゃえばいいでしょうし、 働いている従業員の達成感みたいなのをじっくり考えたいのなら、スチュワードシップ理論を一定参考にしてみるとか。
まとめ
- 従来の企業ガバナンスにはエージェンシー理論が使え、これからの企業ガバナンスには社会学からの理論やスチュワードシップ理論が参考になる
- 自社にあった企業ガバナンスは自分で考え抜く必要がある
まあ、しばらく企業はいいかなと思っている派なので、すぐピンポイントで使えるものではなかったですけど、 元々倫理的な話が中心なのかなと勘違いしていたので面白かったです。
ちなみに、この章の最後にコラムとして『企業倫理と経営理論』というのが載っていて、 そもそも倫理とは何か?とか、倫理をコミュニティ固有のローカルノーム、人類が普遍的に持つハイパーノームに分けて考える話とかも紹介されていて、 これはこれで面白い話なので、ぜひともご自身でどうぞ。
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