読書メモ: 世界標準の経営理論 - 第32章 レッドクイーン理論
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前回の 読書メモ: 世界標準の経営理論 - 第31章 エコロジーベースの進化理論 の続きを読んでいきます。
社会学のターンが第24章から第32章までなので、今回が最後の章ですね。おおー。
経済学、認知心理学、社会学、の異なる3つの視点からの、理論と現実に起きている具体例などが紹介されてきましたが、 実はこの書籍、まだまだ続くようなんですよね。 この先に何が書いてあるのかは全然把握できてないんですけど、どうやら まだ200ページほど残っている ようなので、 焦らずゆっくり読んでいこうと思います。
ちなみに、目次の手前あたりに筆者のおすすめの読み方として、 ビジネス事象単位でまとめられている第5部から読むのもおすすめだよ、と書いてあったりするのですが、 つまりはビジネスの関心ごとによりフォーカスした話から入りつつ、今までに出てきた理論が「つまりはこういうことなんだよ」みたく振り返っていく、 感じの話になるのでしょうか?
まあ読めば分かるからいっか。
ペース的には2020年4月に入る手前くらいまでには、全部読み終えてるとちょうどいいかなーって感じで考えてます。
「ここの理解少し間違ってるよ」などあれば、どしどしご指摘いただければと思います。
『第32章 レッドクイーン理論』の概要
第32章はまとめるとこんな感じの内容でした。
- レッドクイーン理論 とは、相互作用による共進化ではなく、 切磋琢磨することによる共進化 のこと
- 鏡の国のアリスに出てきた赤の女王のせりふからきたもの、お互い相手より速く走ることで共進化を促す
- 相手の業績が高まればこちらの業績が低くなり、結果としてこちらのサーチが促進され、相手の業績が低くなりこちらの業績が上がる、さらに結果として相手のサーチが促進される、の繰り返し
- 競争を避けて独占の方に持っていくべきか、競争を促して共に進化すべきかは、周りの環境が進化を必要とするか?競合他社がいるかどうか?による
- 進化しなくても問題ないケース(競合他社がいない)では、 SCP理論( from 第1章)に基づいて、競争は避ければ避けるほど望ましい
- 進化が必要なケース(競合他社がいる)では、 レッドクイーン理論に基づいて、サーチしながら競い合い、共に進化するのが望ましい
- 激しい競争にさらされすぎると、 競争そのものが自己目的化してしまう 、限定された範囲でしかサーチしなくなってしまうため、 環境変化で生き残れなくなる
- 競争環境が安定している状況では、切磋琢磨の共進化は有効( from 第4章、チェンバレン型の競争環境)
- 環境が大きく変化するような状況では、ライバルとの競争を意識せず、知の探索型のサーチをしていくべき( from 第4章、シュンペーター型の競争環境)
切磋琢磨することによる共進化、レッドクイーン理論
一言で言うとこれですかね。
前回のエコロジーベースの進化理論では、人材交流などから生まれる相互作用によって共進化が起きる、みたいな話がありましたが、 今回はむしろ競争関係から生まれる共進化の話です。
言われてみると、ああ確かに、という感じなんですが、 これって大手牛丼チェーン店が、うまい、安い、早い(と言った時点でどこかは明確なんですけどw)あたりを競い合って、 より安価な価格で提供できるようになってきてる、みたいな話もそれなんでしょうかね?
ちなみにこのレッドクイーンという名前、 鏡の国のアリスに出てきた赤の女王のせりふからきたもののようで。
おわかりでしょう、あなたが思い切り走ったとしても、せいぜい同じ場所に留まることしかできません。もしあなたが本当に他の場所へ行きたいなら、あなたはいまより2倍は速く走らなくてはならないのです!(ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』より:筆者意訳)
このせりふ自体がそれを意図したものかどうかは僕には分かりませんが、 要は相手と同じ速度で走っていては何も変わらないので、相手より速く走らないとダメで、 それをお互い考えることで切磋琢磨していくよ、共進化していくよ、という話が レッドクイーン理論 だそうです。
企業の共進化のメカニズム
経済学、認知心理学、社会学と、3つの異なる視点から散々見てきたので、 ここでもだいぶ過去の理論からの引用が多くなってます。(まあ最後の章ですしね)
筆者からは、レッドクイーン理論においては第11章、第12章で出てきた組織学習の基本メカニズムが大事だと触れられています。
ざっくり振り返ると、アスピレーション (目線、目標)が高いとサーチを多くする、サーチが多くなると満足度が高まる、 満足度が高まるとアスピレーションは下がり、サーチしなくなる、といった循環プロセスが回るのでした。
これを同様に企業間の競争に持ってきたのが共進化の仕組みです。 本章では企業Aと企業Bの図で表現されてますが、ここも箇条書きでざっくりまとめてみます。
- 企業Aの満足度が低くなる
- 企業Aがサーチする => 企業Aの業績UP! 企業Bの業績DOWN!
- 企業Aは満足度が高くなり、企業Bは満足度が低くなる
今度はこの逆が起きます。
- 企業Bの満足度が低くなる
- 企業Bがサーチする => 企業Bの業績UP! 企業Aの業績DOWN!
- 企業Bは満足度が高くなり、企業Aは満足度が低くなる
これの繰り返しのメカニズムが起きることで、共進化が起きているよとここでは説明されています。なるほど。
結局、競争は避けるべきなの?競争すべきなの?どっちなの?という話
ここで一見すると矛盾が出てきたように見える部分があるのですが、 第1章のSCP理論では、競争は避けるべきものとしてとらえられてきたのに対して、「競争すると良い」みたいな、矛盾するような話が出てきちゃってます。 で、結局 競争は避けるべきなの?競争すべきなの?どっちなの? って話になるわけなんですけど、 筆者の理解では、 企業の『進化』を前提にしているかどうか で違ってくるのでは?と触れられています。
つまりどういうことかというと・・・
- 進化しなくても問題ないケース
- 競合他社がいない
- SCP理論( from 第1章)に基づいて、競争は避ければ避けるほど望ましい
- 例: 日本のサービス業、生産性が低いが、モノとして輸出できるわけではないので国際競争にさらされにくい
- 進化が必要なケース
- 競合他社がいる
- レッドクイーン理論に基づいて、サーチしながら競い合い、共に進化するのが望ましい
- 例: 日本の製造業、海外との競争にさらされている、結果として生産性は高くなる
という感じで、後者ではサーチが必要だし、競争した方が共進化が望めるし、といった違いがあるとのことでした。
競争そのものが自己目的化してしまう、いわゆるガラパゴス化
上までの話がこれまでのレッドクイーン理論で、ここから先が近年さらに研究が進んだ部分(筆者的に新レッドクイーン理論と呼んでいるようです)で、 競争による共進化のリスクの話です。
激しい競争にさらされすぎると、競争相手だけをベンチマークするようになってしまう、 つまりは第12章で出てきたような知の探索・知の深化のうち、知の深化(掘り下げの方)に寄ってしまい、 そのうち 競争そのものが自己目的化してしまう ようになってしまう、とのことでした。
そうなると、結果として別の競争環境で生存できる力を失ってしまう、 別の言い方だと、競争環境が大きく変わったときに全然対応出来なくなっちゃうよ、ということが共進化のリスクとして紹介されてます。 これこそが第12章で出てきた コンピテンシー・トラップ ですね。
from 読書メモ: 世界標準の経営理論 - 第12章 知の探索・知の深化の理論1
ここでは、具体例としていわゆるガラケーのガラパゴス競争が例として挙げられています。うーん分かりやすいw
過剰な品質競争に陥ってしまい、スマートフォンが台頭してきたところでは環境が大きく変わってしまったことにより、 全然対応できなくなってしまったよ、という話が紹介されていますが、まあこの辺はすごく分かりやすいのでさらっと流しちゃいます。
競争の型による違い
競争の型の話が第4章でありました。
from 読書メモ: 世界標準の経営理論 - 第4章 SCP対RBV、および競争の型
さすがに第4章だとだいぶ前なので、そのまま持ってきてしまいましょうか。
- 競争の型は3種類ある
- IO (Industrial Organization) 型の競争
- 市場構造、競争構造に障壁を作り、新規参入を阻むなどして完全競争から如何にして離れるかを考える
- SCP によく合う
- チェンバレン型の競争
- 前提としてすべての企業が差別化されており、どのように勝てる差別化をしていくかを考える
- RBV によく合う
- シュンペーター型の競争
- 不確実性の高さを前提にしつつ、試行錯誤やいかにして環境の変化に対応するかを考える
- IO (Industrial Organization) 型の競争
こんな感じで競争の型は3つあるよって話が以前ありました。
ここでのレッドクイーン理論というのは、この中の チェンバレン型の競争 にあたるそうです。 ある程度の数の企業が、業界内で切磋琢磨する、といったケースのようで。 その場合、競争環境は一定安定していることになるので、 切磋琢磨による共進化は有効 だよとされています。
一方でチェンバレン型の競争の型から、環境が大きく変化してしまって、 シュンペーター型の競争 の型、すなわち不確実性が高まってきたときには、 レッドクイーン理論による知の深化型の共進化のスパイラルは、むしろ足かせになってしまう、 ライバルとの競争を意識せず、知の探索型のサーチをしていくべきだよ、とされています。
環境が大きく変化するほど、競争せずに自身のビジョンによって行動した方が良いという話
今まで散々話に出てきた通り、環境が変わらないなんて状況は現代においてあまり想定できなくて、 むしろ環境の変化がどんどん激しくなっている、不確実性が高まっている、という話が頻繁に出てきてました。
なので、多くの業界で シュンペーター型の競争 の型に移っていく可能性が高く、 知の探索がとても大事 になってくる、みたいな話がこれまで(たぶん視点を変えて何度も)紹介されてきてましたね。
つまりは『 競争相手を見ない 』ことこそが、シュンペーター型の変化を目指すこれからの経営者に必要なんだと、 (レッドクイーン理論を紹介しておいてからの競争しないって流れが中々面白いところですがw) 筆者は述べています。
JINS の田中氏をはじめとしたパネルセッションでの話が紹介されてたのでメモ。
- 同業ライバルとの競争にまったく興味がない
- 何を目標にしているのか?の問いに対しては、自身のビジョン
- 競争相手に囚われないからこそ生まれてくるイノベーションの数々
- 例: JINS MEME 、センサーで眼球の動きを捕捉、既存メガネ業界ではなく、長距離ドライバーのサポートに役立てるなど
なるほどなー。
このタイミングでレッドクイーン理論を紹介してたのって、たぶんこの後半の共進化に対するリスクがあるよ、 からの、競争の型を意識しながらのシュンペーター型の変化の重要性に触れることだったりするんですかね。
まとめ
- 競争することによって共進化する、というレッドクイーン理論のメカニズムを把握する
- 競争環境によっては共進化はリスクがある、不確実性が高い世の中では競争相手を見ずに知の探索を行うことも大事
さすがに3つの視点の最後の章ともなると、過去の理論のこの話で、といった振り返りが多く出てきてますね。
僕は競争が悪とは思ってなくて、本書もそうは書いてないので、 ちゃんとどういうときに競い合って共進化するといいのかを把握しつつ有効活用しながらも、 やはりこれからはサーチしまくるの大事だなって改めて思いました。つまりは diff を取る。
この記事は書かれてから1年以上が経過しており、最新の情報とは異なる可能性があります